
みなさんは、盲導犬についてどのくらいご存じでしょうか。
未来の盲導犬として視覚障害者を支える存在になるまでには、たくさんの人の手と想いが関わっています。
私たちBio Artは、血中の黄体ホルモン測定*1 を通して中部盲導犬協会様の「盲導犬育成事業」をサポートさせていただいております。
今回は「盲導犬訓練士」と「盲導犬歩行指導員」の資格をもち、また繁殖・育成を担当されている中部盲導犬協会の佐藤様に、盲導犬のことやその育成・指導、さらに黄体ホルモン測定についてお話しを伺いました。
*1)メス犬の発情期に血液検査をすることで排卵日が分かり、交配に適した日にち(交配適期)を判定することが可能です。
佐藤 陽子様(社会福祉法人 中部盲導犬協 訓練指導部 繁殖・育成担当、盲導犬歩行指導員)
麻布大学獣医学部動物応用化学科を卒業後、NZにて語学・牧羊犬の訓練を学ぶ。帰国後、中部盲導犬協会へ「盲導犬訓練実習生」として就職。盲導犬訓練士・歩行指導員の資格を取得し、繁殖・子犬育成にも携わる。年間24頭程度の子犬が産まれるため、これまで400頭以上のラブラドールの飼育サポートや訓練、出産を経験。2022年、愛玩動物看護師国家資格取得。
現在は、繁殖業務・パピーウォーカー(盲導犬候補の子犬を生後2か月から1歳まで育てるボランティア)へのアドバイスを中心に、視覚障害者の自立支援を応援する立場として活動を継続している。
Q:はじめに、盲導犬は人に対してどのようなサポートをするのでしょうか?
盲導犬は視覚障害者の歩行をサポートします。
盲導犬ができることは次の5つです。
1.まっすぐ歩くこと
2.目的物に誘導すること
3.段差を見つけて止まること
4.交差点を見つけて止まること
5.障害物を避けること
この5つの動作を組み合わせて、安全で効率的な歩行をサポートしています。
盲導犬がすべての道のりを覚えて歩くことはできませんし、信号の色を判別することもできません。盲導犬使用者(ユーザー)が指示を出し、盲導犬がその道のりをサポートします。
お互いに支えあいながら道を進んでいくのです。
盲導犬はとてもお利口さんだから、ユーザーさんが行きたいところへどこでも連れて行ってくれるのだと思っていましたが、実際は盲導犬とユーザーさんが協力しながら歩いておられるんですね。
そうなんです。
私たちの生活は、視覚による情報の認知が8割を占めるといわれています。
盲導犬がサポートできるのはその1~2割かもしれませんが、それでも視覚障害の方が安心して歩ける大きな力になっています。

Q:育成や歩行指導の中で大切にしていることをお聞かせください。
何よりも、そのユーザーさんに合った盲導犬を提供することが大事だと考えます。
目が見えなくなったばかりで速く歩くのが怖いという方もいれば、先天性の視覚障害の方で歩くことに抵抗がなくどんどん歩きたいという方もいます。
お一人おひとりのご希望や健康状態に合う盲導犬を探す必要があり、そのためには、母犬・父犬の性格もバリエーションに富んでいなければなりません。
様々な性格の親犬がいて、多様なマッチングができるというのが重要です。
また繁殖には年齢制限があるため、引退が近づくと新しい親犬候補を探すことになります。
Q:盲導犬の性格には“優しくて賢い”というような基準があって、そのような気質の犬だけが盲導犬の訓練を受けるのかと思っていましたが、ユーザーさんとの関係を考えて、色々な性格の犬が必要なのですね。では親犬はどのように選ばれるのでしょうか?
パピーウォーカーさんのもとで育てていただく間に、その犬の気立てや遺伝子病を確認します。
加えて、股関節や網膜の状態などいくつかの健康基準をクリアする必要があるため、最終的な親犬の選定は1歳を過ぎてから行うことがほとんどです。
こうした総合的な判断をもとに、盲導犬の親犬としてふさわしい犬を選びます。
Q:それでは、盲導犬の繁殖のことを教えてください。
親犬に選ばれた子は、ブリーディングウォーカーさん(親犬を預かるボランティア)のご家庭で生活をします。
メス犬は発情が始まると陰部に出血が見られるので(発情出血)、この出血が見られたら2週間以内に協会へ連れてきていただきます。実際に交配するタイミングが近づいたら、オス犬のブリーディングウォーカーさんにもお声がけして交配します。
交配後はご家庭に戻り、1か月後にエコー検査で妊娠診断を行い、妊娠が確認できたらフードや管理の変更をしていただきます。
そして母犬は出産予定日の約10日前になると、当協会もしくは出産を担当してくださるボランティアさんのお家に移動します。

Q:黄体ホルモン測定は、どのように活用されていますか?
黄体ホルモン測定を行うことで、排卵日や出産予定日を把握できるようになりました。
黄体ホルモン測定を取り入れる前は、腟表面の細胞の状態(腟スメア検査)や犬同士の反応を観察して交配のタイミングを探っていましたが、個体差もあり難しい部分が多くありました。発情出血開始から14日くらいで交配するという「昔ながらの方法」をとっていたこともあります。
今は黄体ホルモン測定で交配適期を明確に教えていただけるので、とてもありがたいです。
オス犬を連れてきていただくタイミングも予測が立てられるので、犬への負担も減ったと感じます。
またBio Artさんで黄体ホルモン測定すると、検体を送った翌日に結果が分かる*2 ので交配適期を逃すということがなくなり、とても助かっています。
*2)Bio Artでは検体到着日に測定を行い、当日中に結果をお伝えしています。
Q:黄体ホルモン測定の導入によって、職員の方の働き方にも変化がありましたか?
出産予定日の推定に確実さが増し*3、職員の業務負担が減りました。15年ほど前は、出産予定日を「交配からの日数」などで大まかに予測するしかありませんでした。1週間の泊まり込みは当たり前。夜中に呼び出されることもあり、常に緊張感のある勤務でした。
しかし、黄体ホルモン測定をすることで、予定日の前後2日ほどの見守りで十分対応できるようになりました。
盲導犬訓練士そして歩行指導員になるまでには、専門的な技術や経験を積むために数年を要します。その技能をもつ職員たちが、出産時の泊まり込みなどによる働きづらさを理由に辞めてしまうのは本当にもったいないことです。
黄体ホルモン測定の導入によってその負担が軽減され、職員が長く安心して働き続けられる環境づくりにも貢献しています。
*3)犬の妊娠期間は排卵日から平均64日であり、黄体ホルモン測定で排卵日を判定することで出産予定日が推測できます。

黄体ホルモン測定により、交配適期や出産予定日が確実に把握できるようになり、その結果として犬にも職員の皆さんにも負担の少ない環境づくりに貢献できているとお聞き出来て、とても嬉しく思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。これからも盲導犬の育成や繁殖を心より応援しております。
【編集後記】
本取り組みは、2019年より中部盲導犬協会様の繁殖支援を目的に黄体ホルモン測定を提供しているものです。
取材を通してこれまで知らなかった盲導犬の繁殖の現場や、そこに携わる方の想いに触れることができました。
盲導犬の育成や繁殖には、多くの方のご支援が欠かせません。
中部盲導犬協会では、寄付や物品のご寄贈、募金箱の設置など、さまざまな形でのご協力を受け付けています。
詳しくは中部盲導犬協会のホームページをご覧ください。
また、訓練の様子やイベント情報はインスタグラムでも見ることができます。

インタビュアー:Bio Art獣医師 石川・根本



